中野区伝統工芸展は、中野区伝統工芸保存会が主催する、区内在住の伝統工芸職人などが匠の技を実演する作り手と使い手の交流のためのイベントです。使う程に美しさと愛着の増す工芸品の魅力の数々を紹介する催しなのです。
東京都では、江戸~東京の風土と歴史によって磨き洗練され、時代を超えて受け継がれた伝統的な技術・技法により作らた伝統工芸品41品目を東京の伝統工芸品として指定しています。
伝統工芸品とは、「一般的には日常生活の用に供され、手工業により製造される織物、染色品、陶磁器、七宝焼、漆器、木工品、竹工品、金工品、仏壇、仏具、和紙、文具(筆、墨、硯、そろばん)、石工品、人形、郷土玩具、扇子、団扇、和傘、提灯、和楽器、神祇調度、慶弔用品、工芸用具、工芸材料、浮世絵などを指す」とされ、大量生産品というよりも、「手仕事」により制作される生活用品です。柳宗悦さんの「民藝(みんげい)」の基本的な考え方ですね。
現代では、その多くが機械化、人工素材に置き換えられ、価格的に容易に入手できるものに置き換えられていますが、京都などの古都を中心に、今なおその技術・技法が残され、受け継がれています。
経済的な効果・効能を中心に考えると、伝統工芸品のシェアはとても小さなものですが、そんな伝統工芸品が東京にも伝わってます。(参考:「東京都 産業労働局 商工部 経営支援課」)
我が国の伝統的な工芸品は全国各地から東京へ伝わったものも多く、東京の伝統工芸品として指定はされていないものの、技術を持つ職人がおり、市区町村単位で支援をしています。
中野区伝統工芸保存会は中野区に江戸時代から伝わる中野区内の伝統工芸を中心に紹介する「中野区伝統工芸展(Nakano Traditional Craft Exhibition)」を、毎年6月第2週の金土日に主催する団体です。
団体としては、キッチリとしたものというより、中野区の伝統工芸を守り伝えていこうという有志で緩やかに連携している、といった感じでしょうか。
毎年6月とある通り、今年もJR中野駅から徒歩で5分に位置する「中野区産業振興センター」で開催が予定されています。
一応、「中野区役所 都市観光推進担当」がサポートしているようですが、2014年以降、何一つウェブサイトが更新されていないですね。
実はこのイベントの2018年開催については、バスの広告で見ただけで、ウェブサイトを検索する限り、昨年度の開催についてはあるのですが、本年度については、特に情報がないというのが実情です・・・。
通常ですと、中野区で長年活動している職人の方々の作品を展示し、様々な伝統工芸を紹介します。江戸べっ甲、彫刻硝子、組紐、江戸表具、江戸木彫刻、竹工芸を展示していますので、今年も同様かと思いますので、ご興味のある皆様、作品の展示や即売会のほか、職人さんから直接話を伺える良い機会ですので、ぜひお越し(?)ください。
(正直、「観光立国推進基本法」や「東京オリンピック」を通じて、海外からの観光客を誘致しようと考えるのであれば、もう少し江戸・東京の伝統工芸を訴求する取り組みを都区で一体的に行っても良いのではないかと疑問に感じます。)
以前、身近な伝統工芸を調査する企画があり、中野区に問い合わせたところ、中野区伝統工芸保存会を紹介いただき、さらにそこから、中野区で「大川セイロ店」を営んでいる曲物(まげもの)職人の大川良夫さんをご紹介いただき、取材に行ったことがあります。せっかくですので、ご紹介します。
中野区役所で、中野区では年に1回、中野区伝統工芸保存会が主催、中野区などが協力する「中野区伝統工芸展」を開催していると聞きました。区役所でパンフレットをいただき確認したところ、伝統工芸展出品者名簿には東京手描友禅や和人形、江戸べっ甲などがありました。ミッドセンチュリーデザインでは、多くの「プライウッド」製品が世に残っており、プライウッドの基礎的技術である薄板の加工である曲物について調査することとしました。理由は2つ、「曲物=木の器」と連想しやすいこと、「曲物は現役で活躍」しており、柳宗悦さんのいう「用の美」がそこにあるのではないかと思ったからです。伝統工芸保存協会の会長へ連絡の上、曲物製作者へ連絡をし、インタビューのアポイントを取りました。
「曲物」とは、杉やヒノキを1ミリ厚程度に裂き、それを円状に曲げて作った器のことです。その歴史は古く、この方法により作られた水桶が広島県福山市の草戸千軒町遺跡(鎌倉~室町時代)から出土し、広島県立歴史博物館に展示されています。
大川さんが作る曲物は和セイロや中華セイロと呼ばれる蒸し器が中心です。
大川さんは父親が曲物職人であったため、その二代目となります。先代は、親戚が営む曲物屋に弟子入りした後に独立していることから、家業としてのルーツは非常に長いものです。曲物には型が使われ、先代が作った曲物の型は70~80年たった今でも現役で使えるそうです。大川さんが先代に弟子入りしたのは高校生だったころからであり、学校に行きながら家業を手伝うというところからのスタートでした。家業・父息子とはいえ、師弟関係には「教える」という概念がありません。大川さんは先代の作る様子を見て、技術を「盗んだ」といいます。曲物製作には「叩く」という行為がありますが、弟子入り当時の大川さんの叩き音を、居間でテレビを見ている先代に「違う!」と一喝されたとエピソードがあったそうです。「テレビを見ながらも耳はこっち(弟子)を向いている。」と大川さんは笑って話してくれました。
現在、曲物製作者として大川さんが感じている変化として、3つあげられます。
インタビュー当日、大川さんは中華セイロの製作を作って見せてくれました。
目の前で桜の皮を使って、「曲物を縫う」様子は圧巻でした。
大川さんのこだわりは、「手を抜こうと思えばいくらでも手を抜ける場所(製作過程)がある。でも、それをやらない。やってしまうと価格競争に巻き込まれるからだ。価格競争をせず、よいものを作る。これを親父の代から続けている。」
制作の過程は次の通りです。
大川さん、取材で実演制作してくれた大切な中華セイロを「持って帰りな!」とポンと渡してくれました。
大切な手仕事品を、お仕事の邪魔した上に持ち帰るということを許してくれた大川さん。私はこの手の民芸品が大好きですので、とても嬉しく思い、持ち帰りました。
使い慣れたセイロが壊れてしまったという新聞の投稿記事をみた大川さん。自分が作ったセイロではなかったのですが、新聞社に連絡を取りその方へ修理をさせてくれと依頼したこともあるといいます。最近では修理以外の連絡も増えてきたそうです。
少し前の店頭リサーチですが、「西武百貨店 池袋店」で大川さんのセイロが販売されていました。
中野区在住の曲物職人、大川セイロ店の大川さんを取材したときの記事PDF
最後に、毎度のことですが、アートやクラフトにおける「取材ウェルカム!」や「取材命令、俺の話を聞きに来い!」などはいつでもお受けしたいと考えています。いつでも自腹&手弁当で伺います(地球上なら)ので、面白い話がありましたら、お声かけくださいね。(ただ話を聞いて欲しいだけの人(人生相談的な)は、その旨記載の上、お問い合わせいただけましたら、適当に回答します。)→お問い合わせ