森美術館 「塩田千春展:魂がふるえる」

塩田千春 《不確かな旅》 2016年 鉄枠、赤毛糸

ベルリンを拠点にグローバルな活躍をする塩田千春は、記憶、不安、夢、沈黙など、かたちの無いものを表現したパフォーマンスやインスタレーションで知られています。個人的な体験を出発点にしながらも、その作品はアイデンティティ、境界、存在といった普遍的な概念を問うことで世界の幅広い人々を惹きつけてきました。なかでも黒や赤の糸を空間全体に張り巡らせたダイナミックなインスタレーションは、彼女の代表的なシリーズとなっています。

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見どころ

本展は、塩田千春の過去最大規模の個展です。副題の「魂がふるえる」には、言葉にならない感情によって震えている心の動きを伝えたいという作家の思いが込められています。大型インスタレーションを中心に、立体作品、パフォーマンス映像、写真、ドローイング、舞台美術の関連資料などを加え、25年にわたる活動を網羅的に体験できる初めての機会になります。「不在のなかの存在」を一貫して追究してきた塩田の集大成となる本展を通して、生きることの意味や人生の旅路、魂の機微を実感していただけることでしょう。

塩田千春の過去最大、最も網羅的な個展

世界各地で精力的に作品を発表している塩田千春は、美術館、国際展、ギャラリーなどで、これまでに約300本の展覧会に参加しており、近年では年間20本前後の展覧会に参加するなど、国際的にも高い評価を得ています。日本では2001年の第1回横浜トリエンナーレに出展した《皮膚からの記憶》にて注目を集め、2008年には国立国際美術館(大阪)で「精神の呼吸」、2012年に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川)で「私たちの行方」、2013年に高知県立美術館で「ありがとうの手紙」など数々の個展を開催。2015年には第56回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展(イタリア)の日本館代表として《掌の鍵》を展示しました。
本展は、1990年代の初期作品やパフォーマンスの記録から、代表的なインスタレーション、最新作までを網羅的に紹介する、過去最大規模の個展となります。

大規模な没入型(イマーシブ)インスタレーション

塩田千春の25年にわたる実践のなかで、彼女の作品を最も特徴づけるのは、黒や赤の糸を空間全体に張り巡らせるダイナミックな没入型のインスタレーションです。観客はその空間の中を歩きながら、目に見えない繋がりや、記憶、不安、夢、沈黙など、かたちの無いものを体感的、視覚的に意識させられます。糸の色について、塩田は、黒は夜空とも宇宙とも捉えることができ、赤は血液、あるいは「赤い糸」といった、人と人の繋がりと考えることもできると語っています。
本展では、移動や旅を連想させる舟やトランク、沈黙を示唆する焼けたピアノなどを用いた大型インスタレーションを展示します。

「不在のなかの存在」、魂や生きる意味を考える新作

「不在のなかの存在」をテーマに作品を制作してきた塩田千春は、記憶や夢のなかだけに存在する、物理的には存在しないものの気配やエネルギーなどにかたちを与えてきました。塩田は自身の身体と作品を分かちがたい一体のものとして捉えていますが、初期のパフォーマンス以降、自身が演じた限られた映像作品を除けば、身体が作品に現れて来なかったのは、そこに「不在のなかの存在」を意識させるためでもあるでしょう。
しかし、一昨年に癌の再発を告げられ、病院の治療プロセスに機械的に従う時間のなか、「魂はどこにあるのか」という問いが浮かんだといいます。その過程で、身体がばらばらになるような感覚に襲われた塩田は、壊れた人形のパーツばかりを集め、再び自身の手足を鋳造した作品を作りはじめました。本展のための新作インスタレーションでは、身体の断片が繋げられ、観る者に魂や生きる意味を問いかけます。

初期作品からの発展と一貫性を辿るアーカイブ展示

塩田千春は京都精華大学では絵画を専攻しましたが、1993年から1994年のオーストラリア国立大学留学中にはすでに、《一本の線》という並行線のみの大規模なドローイングや、空間に「絵を描くように」糸を張った作品も制作しています。また同時期には、「絵のなかに自分が入っている夢をみた」ことをきっかけに、身体に絵具を塗り、シーツを使ったパフォーマンス《絵画になること》も実施しました。その後ドイツに留学した塩田は、本格的に身体を使ったパフォーマンスを始め、以降ベルリンを拠点にさまざまな試みを続けてきました。
本展のアーカイブ展示では、初期のドローイングから、インスタレーションやパフォーマンスの記録を通して、彼女の実践の発展とそこに通底する一貫性を辿ります。

舞台美術の仕事に関する資料展示

塩田千春は、2003年にウヤズドフスキ城現代美術センター(ポーランド、ワルシャワ)で発表された「オール・ア・ローン」(可世木祐子演出)以降、ダンスやオペラなど数々の舞台美術を手掛けてきました。ドイツでは、キール歌劇場オペラハウスで上演された「トリスタンとイゾルデ」(2014年)、「ジークフリート」(2017年)、「神々の黄昏」(2018年)などのワーグナー作品。国内では、岡田利規演出による「タトゥー」(2009年、新国立劇場)や、細川俊夫作曲、サシャ・ヴァルツ演出による、2011年初演のオペラ「松風」(日本初演2018年、新国立劇場)(※1)などの作品があります。
塩田の空間芸術が舞台公演とどのように関係づけられ、いかに活かされてきたのか。本展では、記録映像や模型を通してその様子を再現します。

※1 オペラ「松風」は、モネ王立歌劇場(ベルギー、ブリュッセル)で初演されて以降、ベルリン国立歌劇場(ドイツ)、ポーランド国立歌劇場(ワルシャワ)、ルクセンブルク歌劇場でも公演されました。

塩田千春

1972 年大阪生まれ、ベルリン在住。2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。南オーストラリア美術館(2018年)、ヨークシャー彫刻公園(2018年)、スミソニアン博物館アーサー・M・サックラー・ギャラリー(2014年)、高知県立美術館(2013年)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(2012年)、国立国際美術館(2008年)を含む世界各地での個展のほか、シドニー・ビエンナーレ(2016年)、キエフ国際現代美術ビエンナーレ(2012年)、横浜トリエンナーレ(2001年)など国際展参加も多数。2015年には第56回べネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表。

塩田千春
撮影:Sunhi Mang

展示会の様子

開催直後ということもあり、ゆったりとした環境で鑑賞することができます。

森美術館 チケット売り場

森美術館 チケット売り場

塩田千春 《どこへ向かって》

会場入り口のエスカレーターにも、作品が展示されています。

塩田千春 《どこへ向かって》 2017/2019年 白毛糸、ワイヤー、ロープ 展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年

塩田千春 《どこへ向かって》 2017/2019年 白毛糸、ワイヤー、ロープ 展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年

 

塩田千春展 魂がふるえる

塩田千春展 魂がふるえる

塩田千春《不確かな旅》2016年

会場に入って最初のインスタレーションは、《不確かな旅》。展示会場では作品にかなり接近することもできます。

塩田千春 《不確かな旅》 2016年 鉄枠、赤毛糸 展示風景:「不確かな旅」ブレイン|サザン(ベルリン)2016年

塩田千春
《不確かな旅》
2016年
鉄枠、赤毛糸
展示風景:「不確かな旅」ブレイン|サザン(ベルリン)2016年

1本1本の糸で作られています。

《不確かな旅》

《不確かな旅》

塩田千春《静けさの中で》

塩田千春 《静けさの中で》 2008年 焼けたピアノ、焼けた椅子、黒毛糸

塩田千春
《静けさの中で》
2008年
焼けたピアノ、焼けた椅子、黒毛糸

塩田千春《集積―目的地を求めて》

約430個のスーツケースが振動し続ける本作は、塩田がベルリンの蚤の市で見つけたスーツケースの中に、古い新聞を発見したことをきっかけに制作されたそうです。
いくつかのスーツケースがピコピコ動いています。

塩田千春 《集積―目的地を求めて》 2016年 スーツケース、モーター、赤ロープ

塩田千春
《集積―目的地を求めて》
2016年
スーツケース、モーター、赤ロープ

このほか、何だかかわいい作品も展示されています。
東京の街並みと糸で結ばれたミニチュアがよい感じです。

ミニチュアと糸。

ミニチュアと糸。

開催概要

  • 会期:2019.6.20(木)~ 10.27(日) 会期中無休
  • 開館時間:10:00~22:00(最終入館 21:30)
    ※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
    ※ただし10⽉22⽇(⽕)は22:00まで(最終⼊館 21:30)
  • 会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)

 

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