最近アート界で話題となっていることと言えば、東京大学(東京都文京区)安田講堂前の地下食堂に飾られていた著名画家の大作を、食堂を管理する東大生協が廃棄処分してしまったことでしょうか。
この壁画は、1976年に東大生協創立30周年記念事業の一環として、元同生協役職員らで構成した記念事業委員会が、元生協従業員等に募った募金の使途として、故・宇佐美圭司氏に制作を依頼し、40年もの間、食堂の壁面に飾られていました。
ところが食堂の老朽化に伴う全面改修の折、作品保護という基本的な認識を持たないまま、廃棄処分の扱いとなってしまったようです。
この問題に対し、東大生協HPで正式に「謝罪文」が掲載され、その経緯が記載されていますが、制作から40年が経ち、すっかり壁面の一部と同化してしまったアート作品に対する管理者の認識が正直に記載されており、なるほどなぁ・・・と考えさせられます。
このうち、特に「作品の表題がなく、解説も付されていなかった」という点が重要ではないかと思います。アート作品には解説を付けることなく、見たままを感じるということも大事な視点ですが、一方で、どのようなアート作品であっても、時代が流れ、当事者が少なくなると、その由緒や経緯が不明となることもあると思います。
また、設計者主体で検討が進んでいく場合、保存すべきアート作品という認識がないまま進んでいくこともしばしば起こり得ることだと思います。建築の世界ではスクラップ・アンド・ビルドは一般的であり、すでに歴史的建造物ともいえる黒川紀章氏が設計し、1972年に建設された「中銀カプセルタワービル」も保存か解体かで揺れ動いていますし、国立西洋美術館(東京)を設計した近代建築の巨匠、ル・コルビュジェの下で学んだ坂倉準三が主宰する建築設計事務所が設計した「大阪府東大阪市の旭町庁舎」(同市旭町)について、市は新庁舎に建て替える方針を固めた、などのニュースもありました。
施主さんがアート作品に無関心のまま発注すれば、設計・施工会社さんも気にせず撤去してしまう、という残念な流れになってしまったようです。
言葉は空間に残りませんから、やはり永続的な保存を前提とするならば、作品の横に必ず作家名、制作年度や由来などを記したものを設置するという予防が必要だったと思われ、これは必ずしも、今回の一件が現在の東大生協現場運営者の責任のみならず、壁に設置された当時の関係者にも責任があることであり、当事者のみを一方的に責めることは酷であると思います。
願わくば、回収された食堂には、新たに現代の作家による作品が掲載されると良いですね、しかも次回は持ち運べるサイズで。
ところで、多くの著名画家のアートワークも人災で失われています。オーストリアのイミデンフ城はアート作品の収蔵庫として使われていましたが、1945年の火事によって、クリムトの作品15点などが失われました。
Photographic portrait from 1914
The Girlfriends
Measures: 99 x 99 cm
Technique: Oil on canvas
Depository: Destroyed by a fire set by retreating German forces in 1945 at Schloss Immendorf, Austria.Especially in his late drawings Klimt engages to homosexual love. In this late painting the bodies of the women seem to be dematerialized. The background dissolves in a decorative ornamental space.
今回の東大生協のアートワーク廃棄は、今後のアートワークの保存方法について一石を投じることとなると思います。多くの現代アートが公共の場に設置されていますが、いずれ老朽化を迎え、やむなく撤去する日が来る際に、どのように対応すべきか、これを購入の時点から想定しながら未来を計画する必要があるのでしょう。
今回の一件はとても残念なことで、きっと最も憂うべき失態としてアート市場に名を遺すことを思うと、東京大学及び東大生協にとって、気の毒だなぁと思う次第です。