園芸用剪定ばさみを調査する

グッドデザイン賞を受賞した剪定ばさみ。

デザイン雑貨のあり方として、燕三条の産業について調べていましたが(新潟県の燕三条とハサミを調べてみる)、実際の製造状況について確認したいと思い、園芸用の剪定ばさみを製造している工場を訪ねました。

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1 園芸用剪定ばさみの製品ラインナップ

この会社(以下、当社)で製造している製品は主に園芸用ハサミであり、その中でも5,000円~7,000円代が主力商品である。使い手を意識した製品設計思想は、平成16年、平成18年と複数のGマーク受賞という実績にも表れている。グッドデザイン賞を受賞した剪定挟BB200の価格は7,350円。スプリングを使ったX型枝剪定挟である。握る柄の部分の形状は人の手の形状にしっかりフィットするように設計されている。

グッドデザイン賞を受賞した剪定ばさみ。

グッドデザイン賞を受賞した剪定ばさみ。

このほか、各種植木鋏、剪定鋏、華道用鋏など、大きさや握りやすさによって男性用、女性用もある。

2  園芸用剪定ばさみの価格

当社の製品は4,000円~、高いものは15,000円程度のものまである。ハサミは100円均一でも買えるし、理髪店用ハサミのように、当社の最高単価のものよりも数倍高いハサミも存在する。このようにハサミ全体でみると、当社のハサミは全体のなかでも真ん中よりやや上くらい、と社長はとらえている。

3 園芸用剪定ばさみの製品企画の流れ

当社の商品企画の流れは、定型的な流れは存在しない。口頭での説明を受けたものを簡単に示す。
① 何を切るかを聞く
② 使用している現場を見る
③ おおよその図面を作る
④ 試作を作る
⑤ 試作を改良する

4  園芸用剪定ばさみ 製品企画への考え

社長によると、ハサミは誰が考えてもだいたい同じような形になるという。そのなかで、どのように人の手になじむハサミを作るかをいつも考えるという。
当社の製品企画は「人と組む」である。アイデアの着想は専門的な知識を持つ人と行うことで生まれる。
例えば、グッドデザイン賞を受賞した剪定挟BB200はある大学の教授との話の中でアドバイスを受けた。

また楽器などに使われるパオルージュという木を持ち手部分に貼ったKH5(下)はバラ研究家である梶みゆき氏との出会いから生まれた。

バラ研究家との出会いから生まれた剪定ばさみのデザイン。

バラ研究家との出会いから生まれた剪定ばさみのデザイン。

これらのアイデアを、社長自ら図面に落とし込むことで、差別化されたハサミの持ち手部分のデザインを生み出してきた。

ハサミは差別化のしにくい商材であるため、やみくもに新商品を作ればよいというものではない。同時にいつまでの昔からの商品が売れ続けるとも言い難い。現在の当社は「園芸用鋏」を中心に製造しているが、そこに固執するわけにはいかない。既存の技術を維持しつつ、新たなニーズに応じた商品を社外パートナーと共に開発していかなければならない。

5 園芸用剪定ばさみのOEM製品

当社では、マーケティングやデザイン性に加え、蓄積された製造ノウハウを活用し、OEM製品の製造もおこなっている。

グリップ部分に滑り止め加工した果樹園用のハサミ。

グリップ部分に滑り止め加工した果樹園用のハサミ。

6 園芸用剪定ばさみの新しい販売ルートを作る

一般的な小規模工場の主な流通経路は「問屋」である。昔から馴染みの問屋に販売経路を任せている。問屋は商品を専門店や百貨店などに納めているが、小規模工場が自分の製品がどこで販売されているかを詳細に把握することは難しい。問屋取引はこのような点でデメリットになる一方で、まとまった受注や商品開発時の情報の提供といった点においてはメリットが大きい。
新たに流通経路を開拓する力がないということは中小企業全体に通じる弱みであり、地域全体に言えることである。最近はネットを通した販売にも力を入れている。

今後の製造業は自分で販路を確保していなければならないという点は誰しもが理解している点であるが、小規模工場においては営業専属の従業員がいないこともあり、行政や産業振興センターなどによる販売支援が今後も必要であると考えられる。また、問屋を通した販売以外に販売専属のパートナー企業探しも必要である。

7 新しいハサミを作る

現在当社では、植木の剪定時に鋏を通した病原菌が他の枝木に感染しないよう殺菌するための「触媒+ガス」を使った鋏を共同で開発している。まだまだ全くの試作段階であり、製造の目途も立っていないが、このような「今までと違う、これまでにやったことのない、人と全く違う」商品開発を進めていかなくてはならない、と社長は考えている。

木の剪定時に鋏を通した病原菌が他の枝木に感染しないよう殺菌するための「触媒+ガス」を使った鋏(C)を共同で開発している。

木の剪定時に鋏を通した病原菌が他の枝木に感染しないよう殺菌するための「触媒+ガス」を使った鋏を共同で開発している。

8 文化をデザインする

これから時代がどんなに進もうとも、ハサミはこれ以上の進化は考えられないのではないか。もし進化するとしたら、今、こうして握っているハサミの動力を電気にするとかが考えられるが、そのような物を日本人が好むかどうか・・・。昔からあるこのハサミをよりよくしていくためには、私たち日本人の園芸に対する意識や文化を考えてデザインしなくてはならない。

使い勝手とデザイン、製品は人の手の感覚によって維持されている。

使い勝手とデザイン、製品化のバランスは、人の手の感覚によって維持されている。

新しいデザインやアイデア、機能を追加した商品を開発していかなくてならなないという事は十分理解しているし、当社は常にそれに挑戦している。しかし一方で、昔からのハサミをどのようにかしてもっとよくする方法もあるのかもしれないという視点も忘れてはいけない。「伝統の技能と先端の技術の融合」はこれまでもこの先も当社の方針である。

※数年前のお話なので今とは異なっているかもしれない点については、ご容赦ください。

次回は剪定ばさみの製造過程について。

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