平成30年10月31日,我が国を含む6か国が国内手続を完了し,協定の寄託国であるニュージーランドに対し通報を行ったことから,同年12月30日に環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)が発効することとなりました。これにより,著作物等の保護期間の延長等を含めた著作権法改正が平成30年12月30日から施行されることとなりました。
改正の趣旨
TPP12協定は,アジア太平洋地域の12か国(※)の参画のもとで構築された包括的な経済連携協定であり,モノの関税だけでなく,サービス,投資の自由化を進め,さらには電子商取引,国有企業の規律,環境,そして著作権を含む知的財産など,幅広い分野で21世紀型の新たなルールを構築することを目指すものとなっています。知的財産章もまた,このTPP12協定全体の大きな考え方の下に策定されており,著作権や商標,特許,地理的表示等の知的財産権について,権利の適切な保護と,民事上及び刑事上の権利行使手続並びに国境措置等について規定し,もって,知的財産権の保護と利用の推進を図る内容となっています。
- 著作物等の保護期間の延長
- 著作権等侵害罪の一部非親告罪化
- 著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段に関する制度整備(アクセスコントロールの回避等に関する措置)
- 配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与
- 損害賠償に関する規定の見直し
改正の概要
(1)著作物等の保護期間の延長
著作物等の保護期間について,改正前の著作権法においては,著作物の保護期間の終期は原則として著作者の死後50年とされており(映画の著作物については公表後70年まで),実演やレコードについても,それぞれの起算点から50年とされていましたが,今回の改正により,著作物,実演及びレコードの保護期間の終期を,それぞれの起算点から70年とすることとしています。
(2)著作権等侵害罪の一部非親告罪化
改正前の著作権法においては、著作権等を侵害する行為は刑事罰の対象となるものの、これらの罪は親告罪とされており、著作権者等の告訴がなければ公訴を提起することができませんでしたが、今回の改正により、著作権等侵害罪のうち、以下の全ての要件に該当する場合に限り、非親告罪とし、著作権等の告訴がなくとも公訴を提起することができることとしています。
[1]侵害者が、侵害行為の対価として財産上の利益を得る目的又は有償著作物等(権利者が有償で公衆に提供・提示している著作物等)の販売等により権利者の得ることが見込まれる利益を害する目的を有していること
[2]有償著作物等を「原作のまま」公衆譲渡若しくは公衆送信する侵害行為又はこれらの行為のために有償著作物等を複製する侵害行為であること
[3]有償著作物等の提供又は提示により権利者の得ることが見込まれる「利益が不当に害されることとなる場合」であること
例えばいわゆるコミックマーケットにおける同人誌等の二次創作活動については、一般的には、原作のまま著作物等を用いるものではなく、市場において原作と競合せず、権利者の利益を不当に害するものではないことから、上記[1]~[3]のような要件に照らせば、非親告罪とはならないものと考えられる一方で、販売中の漫画や小説の海賊版を販売する行為や、映画の海賊版をネット配信する行為等については、非親告罪となるものと考えられます。
(3)著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段に関する制度整備(アクセスコントロールの回避等に関する措置)
改正前の著作権法においては、アクセスコントロール機能のみを有する保護技術については、技術的保護手段の対象とはされていませんでしたが、今回の改正により、従前の技術的保護手段に加え、アクセスコントロール機能のみを有する保護技術について、新たに「技術的利用制限手段」を定義した上で、技術的利用制限手段を権原なく回避する行為について、著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き、著作権等を侵害する行為とみなして民事上の責任を問いうることとするとともに、技術的利用制限手段の回避を行う装置やプログラムの公衆への譲渡等の行為を刑事罰の対象とすることとしています。
(4)配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与
改正前の著作権法においては、商業用レコード(市販の目的をもって製作されるレコードの複製物)を用いて放送や有線放送が行われた場合、実演家及びレコード製作者は放送事業者等に対し二次使用料請求権を有することとしており、CD等の商業用レコードを介さずインターネット等から直接配信される音源(いわゆる「配信音源」)を用いて放送や有線放送が行われた場合においては、二次使用料請求権は発生しませんでしたが、今回の改正により、実演家及びレコード製作者に対し、配信音源の二次使用について、商業用レコードと同様に二次使用料請求権を付与することとしています。
(5)損害賠償に関する規定の見直し
著作権等侵害に対する損害賠償請求について立証負担の軽減を行うため、現行規定に加えて、侵害された著作権等が著作権等管理事業者により管理されている場合には、著作権者等は、当該著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額を損害額として賠償を請求することができることとしています。
(6)施行期日
これらの改正事項については、前述のとおり、TPP11協定が日本国について効力を生ずる日である平成30年12月30日から施行されることとなっています。
変更となった著作権に関するQ&A
保護期間とは
著作権や著作隣接権などの著作権法上の権利には一定の存続期間が定められており、この期間を「保護期間」といいます。
これは、著作者等に権利を認め保護することが大切である一方、一定期間が経過した著作物等については、その権利を消滅させることにより、社会全体の共有財産として自由に利用できるようにすべきであると考えられたためです。
改正前の著作権法においては、著作物等の保護期間は原則として著作者の死後50年までとされていましたが、このたびの法改正により、原則として著作者の死後70年までとなります。著作物等の保護期間に係る改正の概要については、以下のとおりとなります。
保護期間の計算方法
すべての期間は、死亡、公表、創作した年の「翌年の1月1日」から起算します(第57条)。改正後の著作権法では、例えば、手塚治虫さんの著作物は、手塚さんが平成元(1989)年に亡くなられましたから、平成2(1990)年1月1日から起算して、70年後の、 2059年12月31日まで保護されることとなります。
著作物等の保護期間はどのように変わった?
原則として昭和43年(1968年)以降に亡くなった方の著作物の保護期間が延長されることとなります。具体的には、昭和43年(1968年)に亡くなった方の著作物の保護期間(原則)は平成30(2018)年12月31日まででしたが、平成30(2018)年12月30日付けで著作者の死後50年から70年に延長されることになり、20年長く著作物等が保護されることとなります。
例えば、藤田嗣治さんの著作物は、藤田さんが昭和43(1968)年に亡くなられましたから、昭和44(1969)年1月1日から起算して、これまでは50年後の、平成30(2018)年12月31日まで保護されるとされていましたが、このたびの法改正により、70年後の、 2038年12月31日まで保護されることとなります。
既に保護期間が切れている著作物等の保護期間はどのようになるか?
著作権法においては、一度保護が切れた著作物等については、その保護を後になって復活させるという措置は採らないという原則があるため、改正法の施行日である平成30(2018)年12月30日の前日において著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されます。したがって、既に保護期間が切れているものについては、遡って保護期間が延長されるわけではありません。
保護期間の延長により、外国人の著作物の保護期間はどのようになるか?
原則として、条約上保護義務を負う外国人の著作物の保護期間は、我が国の著作権法の仕組みによることとされているため、我が国における外国人の著作物の保護期間も原則として70年に延長されることとなります。ただし、相互主義により、我が国より保護期間が短い国の著作物は、その相手国の保護期間だけ保護されます(第58条)。例えば、ある国で著作物の保護期間が著作者の死後70年であれば、我が国でも当該国の著作物は70年間保護することとなります。他方、ある国で著作物の保護期間が著作者の死後50年であれば、我が国の保護期間が延長された後も、我が国でも当該国の著作物は50年間保護すれば足りることとなります。
保護期間の延長により、外国における我が国の著作物の保護期間はどのようになるか?
著作物等の保護期間が原則著作者の死後70年としている国において、相互主義が採用されている場合には、これまでこれらの国において我が国の著作物は原則著作者の死後50年までしか保護されていませんでしたが、今回我が国が著作物等の保護期間を延長することで、これらの国における我が国の著作物の保護期間は70年に延長されることとなります。
保護期間の戦時加算とは?
サンフランシスコ平和条約に基づき、我が国がベルヌ条約等により著作権を保護する義務を負っていた連合国及び連合国の国民が戦前又は戦中に取得した著作権の保護期間については、通常の保護期間に、昭和16(1941)年12月8日(開戦時)から当該国とのサンフランシスコ平和条約発効の前日までの期間の日数(例えば、米国やオーストラリアについては3794日)(戦中に取得した著作権については取得時から起算)を加算することとなっています(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律第4条)。
現在戦時加算期間となっている著作物の保護期間はどのようになるか?
改正法の施行日である平成30(2018)年12月30日の前日において著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されるところ、同日(平成30(2018)年12月29日)において戦時加算期間となっている著作物は、戦時加算によって通常の保護期間に戦時加算期間が加算されていることにより、現在も著作権が消滅していない著作物に当たるため、保護期間は50年から70年に延長されます。
戦時加算の対象となる著作物の保護期間は、70年に加えて戦時加算分が保護されるか?
法的には、保護期間70年に加えて戦時加算分が保護されることとなります。我が国は、戦時加算義務を定めるサンフランシスコ平和条約上の権利義務を法的に変更することは現実的には困難であることも考慮し、戦時加算問題の現実的な打開に向け、TPP交渉においては、我が国が戦時加算義務を負っている国(米国、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア)の各政府との間で個別に文書で、
- 戦時加算問題への対処のため、権利管理団体と権利者との対話を奨励すること
- 必要に応じて、これらの対話の状況及び他の適切な措置を検討するため、政府間で協議を行うこと
を確認しています(TPPを離脱した米国との間では、平成30(2018)年4月に、改めて文書で確認しています)。また、日EU・EPA交渉においても、関係国(英、仏、蘭、ベルギー、ギリシャ)との間で同様の文書による確認を行っています。この文書によって、権利管理団体の取組及びそれを政府間で後押しすることを通じて、対象国において戦時加算分については権利行使しないという対応が期待され、問題の現実的な打開に向けた一歩となっています。
旧著作権法下で保護を受けていた著作物の保護期間はどのようになるか?
旧著作権法(明治32(1899)年制定、以下「旧法」という)と現行著作権法(昭和46(1971)年1月1日施行)では著作物の保護期間が異なっていますので、旧法の時代に公表又は創作された著作物の著作権が存続しているか否かを考える際には、旧法及び現行著作権法の保護期間の規定を調べる必要があります。
旧法及び現行著作権法における著作物の保護期間は、数次にわたる改正の結果、次の表のようになっています。
法改正により保護期間の長さが変更される場合は、それぞれの改正法の施行の際、現に著作権が消滅していないもののみが、変更された保護期間の適用を受けます(附則第2条、平成8年改正法附則第1条第2項、平成15年改正法附則第2条)。なお、旧法の時代の著作物の保護期間については、変更後の保護期間と比べて、旧法に定められた保護期間の方が長い場合は、その長い保護期間が適用されます(附則第7条、平成8年改正法附則第1条第3項、平成15年改正法附則第3条)。
例えば、昭和45(1970)年に亡くなった著作者による、生前に実名で公表された小説の保護期間は、旧法では平成20(2008)年まで(死後38年間)保護されることとなっていましたが、昭和46(1971)年1月1日の現行著作権法の施行時に著作権が消滅していないため、2020年まで(死後50年間)保護されることとなりました。さらに、このたびの平成30(2018)年12月30日の著作権法改正時にも著作権が消滅していないため、2040年まで(死後70年間)保護されることとなります。
問11 旧著作権法下で保護を受けていた実演(演奏・歌唱)、レコードの保護期間も20年延長される?
旧法においては、演奏・歌唱及びレコードは著作権により保護されており、その保護期間は著作者の死後30年(団体名義は発行後30年)となっていました。
現行著作権法では、[1]旧法の著作権の保護期間が現行著作権法の著作隣接権の保護期間より長い場合は、旧法による保護期間とし、さらに、[2]この旧法の保護期間が新法施行の日から50年よりも長くなるときは、現行著作権法によって新しく保護される実演等との均衡を考慮して、現行著作権法施行後50年(2020年12月31日)をもって打ち切ることとされています(附則第15条第2項)。
このたび、実演家及びレコード製作者の権利の保護期間を50年から70年に延長することから、[1]における現行著作権法の保護期間は50年から70年となり、旧法の規定による保護期間の方が長い場合は、旧法の規定により計算されます。[2]の場合、旧法により保護されている実演又はレコードの保護期間の打切り時が現行著作権法施行時50年から70年に延長されます。
[1]旧法の著作権の存続期間が現行著作権法の著作隣接権の存続期間よりも長い場合
[2]旧法の存続期間が現行著作権法施行の日から50年よりも長くなる場合
保護期間内の著作物は使えない?
他人の著作物を利用する場合は、原則として権利者の了解を得る必要があります。なお、「権利制限規定」による例外の場合は、著作権者の了解を得る必要はありません。「権利制限規定」による例外とは、私的使用のための複製や教育目的での利用、図書館・美術館・博物館等、福祉目的での利用など、様々な例外があります。
許諾を得ようと思っても権利者と連絡がとれない、どうする?
権利者の許諾を得る代わりに、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料額に相当する補償金を供託することにより、著作物を適法に利用することができます(第67条、第67条の2、第103条)。詳細は文化庁ウェブサイトを御覧ください。
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