「マルセル・デュシャンと日本美術」

《泉》1950年(レプリカ/オリジナル1917年)

マルセル・デュシャン(1887 – 1968)は、伝統的な西洋芸術の価値観を大きく揺るがし、20世紀の美術に衝撃的な影響を与えた作家と言われています。東京国立博物館では、フィラデルフィア美術館交流企画特別展として、「マルセル・デュシャンと日本美術」展が開催されています。

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マルセル・デュシャンとは

デュシャンは、1911年、パリのキュビズム・グループの一員として名を上げ始めますが、25歳の時に、絵画制作を放棄し、視覚芸術から概念芸術という新しい「芸術の定義」を生み出し、現代芸術の父とも言われています。

東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展 「マルセル・デュシャンと日本美術」

東京国立博物館・フィラデルフィア美術館交流企画特別展
「マルセル・デュシャンと日本美術」

デュシャン展は2部構成となっており、第1部は、フィラデルフィア美術館が企画・監修、アジアの3会場で巡回開催する「デュシャン 人と作品」(The Essential Duchamp)展です。作品および関連文献資料、写真などにより、デュシャンの人生と60年以上にわたる芸術活動を時系列でたどります。

第2部は、「デュシャンの向こうに日本がみえる。」として、400年前、千利休(せんのりきゅう)が伊豆韮山(にらやま)の竹をもって作ったといわれた作品をもとに作られたもので、利休は陶工など職人が精巧に作った器や花器ではなく、傍らにあった竹を花入に用いて絶大な価値を持たせました。これは、究極の日常品(レディメイド)である、という視点から、デュシャン的思考により日本美術を考察しようという試みです。

フィラデルフィア美術館のデュシャン・コレクションについて

フィラデルフィア美術館は、デュシャンの絵画、彫刻、版画など200件以上の作品を所蔵しています。このコレクションの核となっているのはルイーズ&ウォルター・アレンズバーグ夫妻からの寄贈品です。デュシャンはアレンズバーグ夫妻の美術品アドバイザーを務め、夫妻が1950年にそのコレクションを美術館に預けるよう導きました。その後まもなく、フィラデルフィア美術館は別の重要な収集家、キャサリン・S・ドライヤー氏から《大ガラス》 の寄贈を受けました。一方、《遺作》は1968年のデュシャンの死後コレクションに加わり、1969年以来、デュシャンの遺志に基づき、専用の場所に設置されています。
作品だけでなく、フィラデルフィア美術館が所蔵するデュシャン関連のアーカイブおよび参考資料は、他のどのコレクションよりも広範囲にわたるものです。個人的な書類や写真のほか、デュシャンの未亡人アレクシーナ(ティニー)・デュシャンがまとめた制作準備資料、また、フィラデルフィア美術館の職員が収集した大変貴重かつ特色ある研究資料が多くあります。 さらに、アレンズバーグ・アーカイヴと呼ばれる同夫妻のコレクションに関連する記録や、書簡、さらにデュシャンの仲間の芸術家や知識人と夫妻との交流を記録した、夫妻の蔵書すべての寄贈を受けています。
これら全体として、美術館の図書館・アーカイヴでは42,500 件以上のデュシャン関連資料を所蔵、作品とあわせて世界有数のデュシャン・コレクションです。

デュシャンって何をした人?

デュシャンは「芸術とは何ぞ?」を知らしめた人物として知られています。1910年以降、ダダイスムという、既成の秩序や常識に対する、否定、攻撃、破壊といった思想・運動が起こります。1917年、自身が役職を務めるモダンアートのフォーラム「独立芸術家協会」初の展示会に、架空の芸術家R・マットとして、当時どこにでもあった男性用小便器に署名をした作品《泉》を展示しました。その展示会が、民主的で多様であることを受け入れるかを試すためと言われていますが、運営委員会では規約違反として、《泉》の展示を禁ずる決定をしました。

当時は批判的であった《泉》ですが、徐々にその精神性が評価され、今では現代アートの分岐点とされています。「アートとは何か?」という基本的な問いかけを歴史上に刻み付けた出来事です。

とはいえ、本人は30歳で絵を描くことを辞め、専らチェスに打ち込んでいたこともあり、意外と軽い気持ちで出展していたのかもしれませんね。

デュシャンの描いた絵

展示会場には、デュシャンが描いた絵が年代別に展示されています。1902年の作品《ブランヴィルの庭と礼拝堂》では木々のこぼれ日をずいぶんキラキラ描いていたのに、1910年《芸術家の父親の肖像》ではセザンヌ風、1911年《チェスプレイヤーの肖像》では、すっかりキュビズムな感じです。短期間で作風を大きく変えているのは、「芸術とは何か?」を問い続けているからでしょうか(自己否定とか?)。

デュシャンが油彩絵画を始めたのは1902年の夏です。それから8年の間に、フランスの革新的な様々な芸術運動の様式を体験したとされています。このモダニズムの見習い期間に、パリのキュビズムのグループと創造的な関係を持っていることから、少年時代のデュシャンの探求心の深さを知ることができます。

《ブランヴィルの庭と礼拝堂》1902年

《ブランヴィルの庭と礼拝堂》1902年

 

《芸術家の父親の肖像》1910年

《芸術家の父親の肖像》1910年

 

《チェスプレイヤーの肖像》1911年

《チェスプレイヤーの肖像》1911年

 

絵画の後のデュシャン

1912年秋には、職業または生計を立てるための絵画制作を断念し、芸術家として新たな道を切り開き始めました。《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》はこのころの作られた作品です。

解説には「~機械と昆虫の混成物である花嫁が、衣類を脱いでエロティックな香りを漂わせる。~中略~独裁者が、複雑な機械を通して処理される性的な放射物を送り出すことによって、それに応える。~」とあり、もはや常人には理解ができない域に達しています。

彼女の独身者によって裸にされた花嫁、さえも(通称:大ガラス)東京版

彼女の独身者によって裸にされた花嫁、さえも(通称:大ガラス)東京版

《瓶乾燥機》に至っては、もはやただの瓶乾燥機でしかありません。これを芸術として観ることができるかは、その人次第でしょう。ちなみにこれ、パリのデパートでデュシャン本人が買ったものだそうです。

《瓶乾燥機》1961年

《瓶乾燥機》1961年(レプリカ/オリジナル1914年)

そして、疑惑の便器です。ここから現代アートが始まったようです。

《泉》1950年(レプリカ/オリジナル1917年)

《泉》1950年(レプリカ/オリジナル1917年)

デュシャンの向こうに日本が見える

本展示会では、デュシャンと日本の芸術の関連性を「レディメイド」という視点でつないでいます。

400年前のレディメイドとして、千利休作と伝えられる《竹一重切花入》など、日本の作品を中心に展示されています。正直、「あー、無理やり感あるー」という印象ですが、そもそも国立博物館ですので、日本の作品を展示して当然であり、フィラデルフィア美術館との交流企画で何と共通点を見出そうとした苦労がところどころで見えてしまいました。

天正18年(1590)、千利休は豊臣秀吉の小田原攻めに従い、箱根湯本で居ず韮山の竹を切って花入れに見立てました。利休はかたわらにあった「ただ」の竹に、美意識を見出し、それまでになかった絶大な価値を生み出したそうです・・・。って、この作品1点で利休とデュシャンを語ってはいけないような気がします。むしろ、利休は単独で展示会を企画していただきたいです。

伝千利休作《竹一重切花入》安土桃山時代・天正18年(1590年)

伝千利休作《竹一重切花入》安土桃山時代・天正18年(1590年)

展示会場の外側で

今回、気になったのが、お土産コーナーです。ずいぶんとデュシャン関係のお土産が少ないように感じます。絵葉書の便器と車輪くらいしかありません。歴史に名を刻む芸術家なのですから、マスキングテープなんかより、ミニチュアの便器くらい用意しても良かったのではないでしょうか。

東京国立博物館「デュシャン展」のお土産は?

東京国立博物館「デュシャン展」のお土産は?

1階には、TOTOの便器が展示されています。TOTO《陶製腰掛式水洗便器(復元品)》です。デュシャンの便器にあやかって、TOTOの便器が展示されているのですが、もはやこれは、デュシャンの便器が便器以外の何物でもないというアンチテーゼだとしたら、TOTOのダダイスムに脱帽です。

TOTO《陶製腰掛式水洗便器(復元品)》2015年(オリジナル大正3年[1914年]

TOTO《陶製腰掛式水洗便器(復元品)》2015年(オリジナル大正3年[1914年]

デュシャンは自身が批判されることを承知の上で、「芸術ではないような作品を作ることができるか」ということを追求した芸術家(ではないのかもしれないけど)です。現代アートを語る際に、どの本にも「現代アートは、デュシャン以降・・・なにがし~」と枕詞にされていますが、果たして盲目的にこれを受け入れるべきかを考えても良いのかもしれません。

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開催概要

会  期 2018年10月2日(火)~12月9日(日)
会  場 東京国立博物館(上野公園)
平成館 特別展示室 第1室・第2室
開館時間 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、金曜・土曜、10月31日(水)、11月1日(木)は21:00まで開館)
休館日 月曜日(ただし10月8日(月・祝)は開館)、10月9日(火)
観覧料金 一般1200円(1000円/900円)、大学生900円(700円/600円)、高校生700円(500円/400円)
中学生以下無料( )内は前売り/20名以上の団体料金

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