数あるモダンデザインと呼ばれるモノの中で一例をあげるとしたら、何が思いつきますか?
イームズによるラウンジチェアとオットマンが好きな方って多いのではないでしょうか。
Designed by Charles and Ray Eames
Eames Lounge Chair and Ottoman
スチールと革、合板という複数素材を組み合わせた世界的にも有名なこのチェアは一人の映画監督への誕生日プレゼントとして1956年に制作されたものです。使われている素材は今では疑問さえ持たないくらい見慣れたものですが、最も特徴的なデザインは側面から見える半円状のプライウッドです。かつては「木を曲げる」ことは非常に困難なことであり、「曲げる」技術革新がこのチェアを生み出したともいえます。
曲げ木の技術といえば、古代日本にも存在しています。曲物とよばれ、杉やヒノキの薄板を茹で、丸太に巻きつけ乾燥させ桜の皮で縫いとめるという方法です。この方法により作られた水桶が広島県福山市の草戸千軒町遺跡(鎌倉~室町時代)から出土し、広島県立歴史博物館に展示されています。この工法の特徴は手工業、薄板、二次元屈曲、大量生産には不向きであるということです。
工業製品として曲げ木を使い始めたのは19世紀頃のトーネットによる技術開発以降です。1830年、家具職人であったトーネットは、必要部品を最小限にすることを目的として何層にも重ねた合板を曲げる研究を行っていました。その研究成果として、手で材料を切り出し接合加工する従来の木工加工技術から、木を加熱して曲げる技術を開発し、1941年には特許を取得しています。1860年、トーネットはこの技術により作られたチェアNo.14を発表するなどデザイナーとしても活躍しました。さらに1907年、トーネット社は曲げたブナ材と合板によるチェアを発売するなど曲げ木家具の中心的企業として成長していきました。
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The original No.14 chair
Paimio chair | © Jacksons SE
1929年、アアルトはアームチェア「パイミオ」に続き、プライウッドを使った椅子やスツール、ワゴン、テーブルなどを立て続けに発表しています。これらはアアルトの積層合板の技術研究の成果でもあり、その技術的体系は1933年、木を三次元で屈曲する技術として特許を取得するに至っています。この技術的特徴はこれまでの蒸気を使い細い木材を曲げて加工する従来技術と比べ、より幅の広い一枚板を立体的に加工することができる点にあります。これらができるようになった背景として、電気を使った機械技術の進展が挙げられます。
1935年、ブロイヤーも曲げ木椅子、翌36年にネストテーブルを発表するなど曲げ木を使ったデザインの発表が続きました。
1940年になると、イームズは負傷した軍人用のギブスにするため、木を人体にフィットする形に加工する研究の依頼を海軍から受けました。従来からプライウッドという素材を家具に使っていたイームズはその研究にのめり込み、牽引添木という大量生産方式を発明し、第二次世界大戦時には大いに実用化されることとなりました。1942年、進歩したプライウッド技術で三次元的に人の足の形をしたギブスの開発にも成功しています。
Molded Plywood Leg Splint by Charles & Ray Eames for Evans
イームズのアイデアをさらに発展的にとらえたのがアルネ・ヤコブセンでしょうか。イームズやウェグナーの椅子は背と座面が分かれていましたが、ヤコブセンはこれを一枚板で実現しようと、1950年代初めから一枚板のプライウッドの半円形型加工の研究を行いました。1951年にはプライウッドの一枚板で背と座面が一体型の椅子「アリンコチェア」、1955年にアリンコチェアを改良したオフィス用椅子「3107」、1958年にはプライウッドとガラス繊維を組み合わせた「スワンチェア」、「エッグチェア」を発表しました。
ant chair by Arne Emil Jacobsen
モダンデザインと呼ばれるものはこの時代のものが多く、現在世の中に普及している家具などもこの時代のレプリカ、リメイク、コピー、はたまたジェネリックと名を変えたものがほとんどです。デザイナーの信念と技術革新が結びついた時代のモノは「本物」としていつまでも残り続けてほしいものですね。
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