国立美術館の決算書を読み解く その2

国立新美術館

さて、(独)国立美術館では5つの国立美術館を運営していますが、運営状況はどうなのでしょうか。
これは「事業報告書」に記載されています。

最新の事業報告書は平成28年度のものですので、ここから、いくつか気になるポイントを抜粋したいと思います。

そもそも、(独)国立美術館の使命は以下の3つにあります。

  1. 美術振興の中心的拠点としての多彩な活動の展開
  2. 我が国の近・現代美術及び海外の美術を体系的・通史的に提示し得るナショナルコレクションの形成・継承
  3. 我が国における美術館のナショナルセンターとしての美術館全体の活性化に寄与

平成28年度中では、国立5美術館で、所蔵作品展を述べ1,168日開催し、20回の展示入れ替えを行い、延べ115万人が訪れたそうです。
これは前年比の73%増であり、当該年度はかなりヒット展示会があったということです。

また、企画展としては、延べ1,792日、35回開催し313万人!が訪れたそうです。こちらも前年比50%増とあり、近年の国立美術館の企画力の高さを物語っています。

ところで、(独)国立美術館は、その所蔵品を国内で展示し、アートを国民に広く普及するという役割を担っていることから、定期的に地方都市での巡回事業なども行っています。
例えば平成28年度中であれば、山梨県立美術館及び北海道立帯広美術館で開催しています。

それでは、ナショナルコレクションの形成・継承という視点では、どのような事業を実施しているのでしょうか。
これは、具体的には「作品の購入」または「寄贈」があります。
平成28年度中では、529点の作品購入と235点の作品寄贈がありました。
購入に関しては、ある程度の購入資金が必要です。
これに関しては、別途、考察したいと思います。

購入した作品は、永久に劣化しないわけではありません。
美術品は生み出された瞬間から劣化が始まります。
具体的には、油絵の剥離や日本画の破れ、その他、あらゆる劣化が発生します。
実は(独)国立美術館では、このような劣化に対する「修復作業」も担っています。
所蔵作品個々の状態把握と必要な修理・修復等は、どのような美術品にも必要不可欠な作業であり、ここに専門的な技術を持つ修復家と呼ばれる方々がいらっしゃいます。
修復が行われるからこそ、我々は、時を経た美術品をこの目で見ることができるのです。
(余談ですが、工芸の修復家、美術の修復家、宮大工(左官)による修復はそれぞれ、専門性が異なり、これが問題になったのが、日光東照宮の修復で賛否両論の「眠り猫」や「見ざる、言わざる、聞かざる」の修復結果ですね)

独立行政法人ですので、一定の効率的経営や利益の確保が求められています。
これは、結局、運営には我々の税金が投入されており、費用対効果の視点で、極力、コストをかけず、国民が納得できる運営を実施するようにという狙いがあります。

そこで、(独)国立美術館では、経費削減にも取り組んでおり、平成28年度では、前年と比較し、一般管理費33%減、業務費用9%減とかなり頑張っています。
詳細は、報告書では読み取ることができませんが、願わくば、人件費等の必要な費用を削減しないように、と思うばかりです。
(美術という視点では、必ずしもコスト削減が良い結果を生み出すとは思えず、必要最小限の人的資源等は必要だと思います。)

次回は、国立美術館の観客動員数や収益について、考察したいと思います。

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