徳島県鳴門市は渦潮(うずしお)で有名ですが、もう一つ有名なものが「元気ハツラツ!オロナミンC!」で有名な大塚製薬の創業の地でもあります。「大塚国際美術館」は、大塚グループが創立75周年記念事業として徳島県鳴門市に設立した日本最大級の常設展示スペース(延床面積29412平米)を有する「陶板名画美術館」です。
世界中の名画を陶板で再現した「触れる美術館」
一般的な美術館では、展示されている絵画に指を触れることは言語道断ですが、大塚国際美術館に展示されている名画は、基本的にはすべて触ることができます。なぜなら、陶板(タイル)で描かれているからです。
なぜわざわざ陶板なのか、という疑問ですが、大塚グループに陶業を営む会社があり、そこの技術を活用しているからです。制作された作品は、古代壁画から、世界26ヶ国、190余の美術館が所蔵する現代絵画まで至宝の西洋名画1,000余点。大塚オーミ陶業株式会社の特殊技術によってオリジナル作品と同じ大きさに複製されているのです。
元来オリジナル作品は近年の環境汚染や地震、火災などからの退色劣化を免れないものですが、陶板名画は約2,000年以上にわたってそのままの色と姿で残るので、これからの文化財の記録保存のあり方に大いに貢献するものです。
面積が広いということもあり、(1)環境展示、(2)系統展示、(3)テーマ展示の3つの展示から成っています。
- 環境空間をまるごと再現! ダイナミックな環境展示
- 西洋美術史の変遷がわかる! 系統展示
- 表現方法の違いを実感! テーマ展示
環境展示とは、場所そのものを再現しているものです。美術館に入るとすぐに、システィーナ礼拝堂天井画が広がります。もともとは彫刻を制作するはずだったミケランジェロに、教皇がフレスコの天井画の制作を命じたものです。館内では、そんな説明をしてくれるツアーもあります。
主な展示作品
- システィーナ礼拝堂天井画および壁画/ヴァティカン
- スクロヴェーニ礼拝堂/パドヴァ、イタリア(左上)
- 聖マルタン聖堂壁画/ノアン=ヴィック、フランス
- 秘儀の間/ポンペイ、イタリア(左下)
- モネの「大睡蓮」/オランジュリー美術館、フランス
フェルメール《真珠の耳飾りの少女》に触れてもOK
フェルメール《牛乳を注ぐ女》
表現方法の違いを見比べることができる展示方法
アルチンボルトの有名な野菜の絵もまとめて観ることができます。四季というシリーズらしいです。
ゴッホの有名なひまわりは7点が集合しています。展示エリアの「7つのヒマワリ」というフォントが、もっさりして気になるところです。
ムンクの叫び!
現在、東京都美術館で開催されている「ムンク展―共鳴する魂の叫び」でもおなじみの作品の陶板が展示されています。陶板ですので、近づいてよーく観ると、ちょっと雑感があります。
陶板の製作プロセス
陶板名画はオリジナル作品の画像を陶板に転写印刷し、焼成・補色を複数回経て完成されます。転写印刷技術を利用しているということもあり、一部の作品は印刷時の「ドット」が見えるものもあります。
ポロックの作品も展示されていますが、作った人も大変です。ポロックの垂らした絵具を陶板で再現するために、なぞらなくてはならなかったのです!もちろん、ポロックのフィーリングで作られた、絵具ぽたぽたを陶板で完璧に再現することは困難であるため、下地の印刷が「にじみ」のような効果を発揮し、目が悪くなったような感覚(焦点が合わない)に陥ります。飛び越えて新しい表現手法なのかもしれません。
絵画とは異なりますが、縄文土器の再現にも挑戦しています。3Dスキャン・プリントで作られているようです。
最大の感動は「小話」
という訳で、美術初心者にとっては網羅的に学習できる陶板美術館ですが、オリジナル作品を観たいという方には、物足りない感じがしました。入場料も3,000円と決して安くないことを考えると、「テーマパーク」という位置づけでしょうか。
ここで最高に感動したのが、「一握りの砂」というキャッチーな小話です。大塚国際美術館初代館長である大塚正士氏の話がパンフレットに記されています。
大塚グループ各社の社長時に、グループ会社の一つの、大塚化学の技術部長であった社長の弟・大塚正富(現アース製薬株式会社社長)と、技術課長の板垣浩正(現大塚オーミ陶業株式会社取締役)の2名がやって来て、一握りの砂を机の上に盛り上げたそうです。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」のようで面白かったです。
「社長、実はお願いがあるのです。」
「その砂はどうしたのだ?」と尋ねますと、「これは鳴門海峡の砂です。」と言います。うちの工場は紀伊水道に面していて白砂海岸がずっと海峡まで続いており、その白砂です。
「実はこの砂でこれからタイルを作ろうと思っております。この砂はコンクリートの原料として採取し、機帆船で大阪や神戸へ陸揚げして、建築用としてトン幾らで販売しているのです。しかし、これをタイルにして1枚幾らで販売すると非常に価値のある商品になり、徳島県のためにも、また大塚のためにもなりますので、是非とも県知事に話してこの白砂を採取し、タイルを作る許可を貰ってほしいのです。」とのことでした。直ちに当時の知事、武市恭信氏に話をして許可を得たのですが、彼ら2人は大塚が着手しないのなら会社を辞めるとまでの大変な意気込みでして、私も感心したのです。
陶板のクオリティは、どうしたってオリジナルを超えることはできませんが、自分の会社が持つ技術を使い、アートの複製や再現をすることで社会貢献に参画する企業はとても良い会社だと思います。
大塚国際美術館 概要
- 敷地面積 66,630平米
- 建築面積 9,282平米
- 延床面積 29,412平米 (8,897坪)
- 構 造 鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造
- 階 数 地下5階・地上3階
- 設 計 株式会社 坂倉建築研究所
- 施 工 株式会社 竹中工務店
- 開 館 1998年(平成10年)3月21日
入 館 料
- 一般…3,240円
- 大学生…2,160円
- 小・中・高生…540円
〒772-0053
徳島県鳴門市鳴門町 鳴門公園内
Located in the National Park,Naruto-cho,Naruto-shi,Tokushima 772-0053 JAPAN
Tel 088-687-3737
Fax 088-687-1117
E-mail:info@o-museum.or.jp
http://www.o-museum.or.jp/
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